Special Super Love

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「リョーマ」
「ん?何、部長」
まず手始めに、部活中の呼び名が『越前』から『リョーマ』に変わった。
リョーマは相変わらず『部長』のままだ。
「今日、家に泊まって行かないか?」
「部長の家に?いいの?」
「あぁ、明日は休みだからな」
「うん、行く。絶対に行く!」
満面の笑みで肯定の返事をすれば、手塚も少しだけ口元に笑みを作る。
「…イチャついてるにゃ〜」
「そうだね」
それを静かに見つめるのは、菊丸と不二だった。
あれから手塚が変わった。
暇さえあればリョーマに引っ付いている。
威厳ある部長が、ただの恋する男に変わった。
でもテニスの腕は全く鈍る事も無く、部長としての仕事も淡々とこなしている。
「…結構、やるもんだね」
顎に指を掛けて、不二は感心した。
リョーマへの恋心が成就されないのなら、ちょっとは邪魔でもしてやれ、といろいろしてみても、あまり効果が無いのだ。
「やっぱり一筋縄じゃいかないね」

何時でもリョーマの傍にいる。

何時でもリョーマを求めている。

「そろそろ諦めた方がいいのかな」
真面目一貫だった手塚がリョーマを得た事で、少しゆとりが生まれてきたようにも見える。
「…手塚にしては頑張っているじゃない」
「おーい、不二。独り言ばっかり言ってないで、俺達もそろそろ練習しない?」
「英二?」
ちらちらと不二の顔色を伺っていた菊丸は、おそるおそる話し掛けた。
顧問の竜崎がいないので、乾の作った練習メニューをするのだが、今日の菊丸の相手は不二なのだ。
「あぁ、そうだったね。じゃ、始めようか?」
ゴメンね、と菊丸に謝り宛がわれたコートへ向かう。
「不二ってば、ほんっとにマイペースだにゃ〜」
トホホ、と不二の後を歩き始める。
不二はそんな菊丸の後ろに見える二人の姿を、もう一度だけ見ると練習に集中する事にした。


「ただいま帰りました」
「お邪魔しまーす」
「あら、いらっしゃい。越前君」
こうして、手塚の家に行くようになって、これで何度目になるのだろうか。
部活が終われば当たり前のように行く。
しかも手塚の母親が手放しで喜んで招き入れてくれるから、リョーマも拒む必要性が無い。
「…国光、ちょっといいかしら?」
「何でしょうか?」
リョーマには先に部屋に行っていろと伝え、母親とリビングへ向かう。
何だかわからないリョーマは、別段気にする様子も無く1人で階段を上っていく。

その頃リビングでは。
「今日はお父さんと食事に行く事になったから、2人で食事を済まして頂戴ね」
「それは構いませんが、あの、今日は越前を泊まらす約束をしたのですが…」
「あら、いいじゃない。でね、お祖父さまは合宿に参加する事になったみたいでね、今日は戻らないから」
「そうなんですか」
「そう言う訳で、後はヨロシクね」
にこやかに微笑まれ、さっさとバッグを持って出掛けて行ってしまった。

「…2人きりか」
思わぬところで舞い込んで来た大きなチャンスを、絶対に無駄にはしない。
「あ、何かあったの?」
部屋に入れば、リョーマはベッドの上に寝転がって持って来た携帯ゲーム機で遊んでいた。
「…両親は外食をするそうで遅くまで戻らない」
「そうなの?」
「祖父は明日まで戻らない」
「ふーん…えっ、それって」
ゲーム機から目を離さずに会話をしていたリョーマは、自分の置かれた状況に気付き、慌てて顔を上げた。
「そうだ、夜までは俺とリョーマだけだ」
はっきり言われてしまい、身体がギクリと固まった。
持っていたゲーム機の電源を切ると、ベッド上にちょこんと座り込んだ。
「国光…」
「リョーマ、先に食事にしよう」
手塚が口に出す前にリョーマは気付いた。
今日が2人にとって、今までとはまるで違う夜になってしまうのを。

「ご馳走様でした…」
会話もせずに黙々と食事を済ました。
これから先を想像するだけで緊張が走る。
「…リョーマ、先に風呂に入っておいで」
「ん…」
後片付けを任せると、リョーマはダイニングから出て行った。
「…やはり緊張するな…」
カチャカチャと食器を洗うと、水を切る為に次々に並べていく。
とうとう自分達は一線を越えるのだ。
あの身体に触れられる日がとうとうやって来たのだ。
「あっ…」
1枚の皿が手から滑り落ちてしまった
緊張のあまり手が震えている。
「情けないな…」
割れていないのを確認し、最後の1枚を並べると、水に濡れた手を拭いて自分もダイニングから出て行った。
「…国光」
リビングのソファーに座っていると、風呂から出たリョーマが顔を出した。
「どうした?」
「あの、お風呂…」
「俺も入るから、部屋に行っていてくれ」
「…うん」
ドキドキする胸を押さえながらリョーマは2階に上がっていった。

部屋に戻ったリョーマは、することも無いのでベッドに腰掛ける。
ドキドキしているのは自分だけじゃない。
「国光…」
くんくんと自分の身体の匂いを嗅ぐ。
身体の隅々までキレイに洗った。
汗臭いところなんて無いはずだけど、それでも気になってしまう。

あの人がこの身体に触れる。
キレイにしておかないといけない気がする。
「何でこんなに好きなんだろ…」
ぽすんとベッドに寝転がり、そっと目を閉じた。
「国光、俺…」
こうなる事を望んでいたんだよ、誰よりも好きな人だから。
でも、怖くて言えなかったんだ。

「リョーマ?寝たのか」
風呂から上がり部屋に入れば、ベッドの上でリョーマが横になっていた。
まさか待ちくたびれて寝てしまったのか?
それともやはり怖いのか?
焦りのようなものが手塚を襲う。
「大丈夫、起きてるよ」
ころんと仰向けになると、瞼を開いて上から覗いている愛しい相手の顔を見つめる。
眼鏡を外している顔は、秀麗さを更に引き立てている。
「リョーマ、今からお前を抱く」
「…うん、俺を国光だけのものにして…」
「…好きだ、リョーマ」
「俺も好き」
口付けを交わしながら、手塚はリョーマのパジャマのボタンを一つ一つゆっくり外していく。
最後の一つを外すと両側に開く。
「…綺麗だな」
服に隠れている素肌は、象牙のように白く美しかった。
白い肌に2つの淡い色をした突起。
首筋に唇を寄せて軽く吸い付けば、赤い華が咲いた。
「…や…何?」
チクリとした痛みに、ピクンと身体を引き攣らす。
「ここに、キスをした」
自分が付けた華にそっと指を這わした。
「キスマーク?」
「そうだ、簡単に言えば所有印だな」
あからさまな言葉に、途端に顔を赤らめる。
「可愛いな…」
「なっ…あっ、やん」
文句を言おうとしたが、その前に胸の突起に触れられ、リョーマは文句ではなく、甘い声を出してしまった。
指で触れると、まだ柔らかいそれは次第に硬さを増す。
「…あぁ…や…ん…」
指でしっかりと感触を確かめると、続いて自らの舌で愛撫を施す。
ぺろりと周囲から全体を舐めた後、先端だけを舌先で転がすように何度も舐る。
「…ひゃっ、ああっ…」
片方を充分に味わうと、もう片方も同じようにする。
まるで熟した果実のように、甘い香りを放つ身体をじっくり堪能すると、顔を上げてリョーマの表情を覗き込んでみた。
愛しい恋人は初めての快楽に口を半開きにして、甘い声と荒い息を吐いていた。
「リョーマ…」
「く…に…みつ…」
ゆらゆらと揺れる瞳に、手塚の雄は熱を帯びる。
リョーマのパジャマの下と下着を性急に脱がし、自分も身に付けていた全てを脱ぎ捨てる。
早く一つになりたくて仕方が無かった。
我慢なんて出来そうも無い。
いろいろと勉強した全てが、頭から吹っ飛んでしまいそうになる。

リョーマの内部に入った瞬間は、あまりの熱さに眩暈を起こしそうになった。
だから、全く気が付かなかった。
手塚の昂ぶった熱塊を受け入れている部分が傷付き、鋭い痛みをリョーマの身体に与えているのを。

気付いた時は既に遅く、リョーマの意識は遥か遠くに飛んでいた。



「……マ、リョーマ」

どこか遠くで自分を呼んでいる声がする。
誰だろう?
でも、聞いていて心地が良い。

……あぁ、この声は国光だ。

そう思った瞬間、遠のいていた意識が急速に戻る。
「リョーマ?大丈夫か」
「…くに…みつ…」
ゆっくりと瞳を開ける。
しっかり呼んだはずの声はやけに掠れていると、自分でも思った。
「すまない、リョーマ」
まるで壊れ物を扱うような優しさで抱き締められているのに、身体中に鈍い痛みが襲う。
特に言い難い部位は、じくじくと痛みを訴えている。
「…っ…何…で?」
「本当にすまない、俺としたことが…」
どうして自分がこんな状態になっているのか、どうしてここまで真剣に謝っているのか、記憶を探り始める。
「…あっ…俺…」
一つになった瞬間までは覚えているが、それから先が思い出せない。
「自分の欲望だけの為にお前を…」
「国光…謝らないでよ、俺だって国光と一つになりたかったんだから。痛かったけど嬉しかったよ?」
身体を引き裂かれるような痛みを覚えている。
身体が焼けるような熱さを覚えている。
「…リョーマ…本当にすまない…」
腰を癒すようにゆっくりと撫でられて、リョーマの頬は赤く染まった。

初体験は大失敗だった。
本当ならお互いが気持ちよくて、もっとしたくなるようにならなければいけなかったのに。
「次は油断せずにいこう」
「油断って…」
何とも『らしい』言い方に、くすくすと笑いが込み上げるが、直ぐに身体に衝撃を与え、鈍い痛みに変わった。
「大丈夫なのか?」
苦悶の表情を浮かべるリョーマに、手塚は珍しくうろたえる。
「…あんまり、大丈夫じゃないみたい」
「本当にすまない…」
「だから、謝らないでよ…」
先程から謝ってばかりだ。
別に自分だって望んだ関係なのだから、謝られると困ってしまう。
「…次の時はもっと優しくして?」
「いいのか?」
「うん、だって…途中までは気持ち良かったよ?
恥ずかしそうに『良かった』と言われれば、次までには己を自制出来るように、もっと精神面を鍛えなくては、と手塚の胸に決心が生まれる。

だが次の日には、もっと反省する事になった。
手塚の激情をたっぷりその身に受けたリョーマは、盛大に腹を下してしまい、休みどころではなくなってしまったのだ。

この反省は手塚に避妊具の使用と、更なるテクニックを酷使する事になった。



エッチは軽く飛ばしてね。